大ヒットアニメ映画「君の名は。」「天気の子」で知られる新海誠監督の新作「すずめの戸締まり」が11日、全国公開された。東日本大震災の記憶を伝える壮大な冒険物語。新海監督は「今描かないと10代や20代の観客と経験を共有できなくなる」との切実な思いに背中を押されたと明かす。

同作は、高校生のヒロイン鈴芽(すずめ)が災いを招く扉を閉めながら各地を旅するロードムービー。「震災はほぼ全ての日本人にとって自分や世界が書き換わってしまう巨大な経験だった」と新海監督。2016年公開の「君の-」も震災を機に生まれたが、直接的な描写ではなく彗星(すいせい)というメタファー(暗喩)を用いたため、「12歳の僕の娘には(震災を描いていることは)伝わらない」。

「すずめ-」では、企画段階からはっきり震災を描くと宣言し、鈴芽は震災孤児という設定にした。「高校生の胸の中でまだあの記憶が燃えているなら、映画を見る10代の観客も想像が及ぶのではないか」との思いからだ。「死ぬのが怖くないのか」と聞かれて「怖くない!」と叫ぶ鈴芽は、「生きるか死ぬかなんてただの運だと知っている少女」であると想像し、造形したという。

一方でエンターテインメントであることにも、とことんこだわった。全編に盛り込まれたユーモアやキャラクターの躍動感、アクションの迫力、繊細な作画や音の美しさ…。独自の世界観でファンを引き込む作風はこれまでと変わらない。

「悲劇をエンタメの題材にしてはいけないとなったら、誰が何をつないでいけるんだろう、と。ワクワクして楽しめる映画にすることが僕たちの役割だと思いました」

新海監督についての著作もあるアニメーション評論家の土居伸彰さんは「少女がトラウマを乗り越えていく成長物語の中に、人々が忘れかけている3・11の記憶や風景がちりばめられている。『喪』というテーマと娯楽性が完璧に両立している」と評価。「心地よいものを描いてきた新海監督が、震災を直接描き切ることで大きく1歩踏み出した」とみる。

「君の-」で250億円、「天気の子」で141億円とそれぞれ年間1位の興行収入を記録した新海監督の新作が、どれほどのヒット作になるかも注目だ。データ・デジタルマーケティング会社「GEM(ジェム) Partners」のアンケートによると、11月5日時点で「すずめ-」を「一番見たい映画」と答えた人の割合は新海監督の前2作よりも高い。

同社の梅津文最高経営責任者は「前作を上回るスタートを切ることは確実だろう。日本の映画興行が新型コロナウイルス禍前の水準に戻るのを、強く後押しする作品の1つになることは間違いない」と予想している。