木村拓哉(50)が織田信長を演じる映画「レジェンド&バタフライ」が27日に公開をひかえ、松本潤(39)が徳川家康を演じるNHK大河ドラマ「どうする家康」は8日にスタートしました。どちらも「華」と「技」を兼ね備えた俳優ですが、比重は豪胆な信長役では前者が大きく、老練な家康役には後者が強く求められます。共に適役といえそうです。過去作を振り返ると、信長型と家康型の微妙な俳優のタイプの違いが浮かび上がります。(敬称略)【相原斎】

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「レジェンド&バタフライ」は東映の70周年記念作品で、相手役の濃姫に綾瀬はるか(37)を迎えた豪華顔合わせです。濃姫の侍従役で共演した伊藤英明(47)が信長と同じ岐阜出身という縁で、昨年11月の信長祭りに木村が参加。観覧申し込みに96万人もの応募があったことは記憶に新しいところです。

一方、映画やドラマで幅広い役柄をこなし、演技力に定評のある松本ですが、実は大河ドラマは初出演です。「鎌倉殿の13人」の最終回に、家康にふんした松本が(鎌倉時代の歴史書)吾妻鏡を読むシーンが挿入され、「どうする家康」への期待を膨らませた人も少なくないと思います。

くしくも両作品の脚本を手掛けることになったのが、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」やドラマ「相棒」シリーズで知られる古沢良太氏です。「レジェンド-」に臨むに当たっては「政略結婚で結ばれた夫妻の笑えて泣けるロマンチックコメディーを書いてみたいとかねがね思っていました」。「どうする-」については「老獪(ろうかい)なイメージがありますが、ピンチピンチの連続の人生が何より面白い。これ以上の素材はない」と意欲を語っています。

これまでにないものをという意気込みが感じられますが、まるで違う人物像かといえば、古沢さんはどちらのコメントにも「先人たちが作り上げてきた人物像を踏まえた上で」という前振りをしました。信長と家康には誰もが一定のイメージを抱いているからです。

試写会で見た「レジェンド-」の木村は、これまでとはひと味違った目力が印象的です。いや応なく信長の「華」が漂います。ドラマ序盤の松本からは青年・家康のナイーブな感性がにじんでいました。老練さの裏にあった行き届いた気配りは、こんな青年だからこそ培えたのだろう、と想像させます。松本の「技」なのでしょう。

実は木村は25年前にもドラマ「織田信長 天下を取ったバカ」に主演しており、キャスティングする側は当時25歳の木村にも信長のイメージを重ねたようです。もちろん例外はありますが、過去の作品を振り返ると、信長型と家康型の微妙なタイプの違いが浮かび上がります。

大河ドラマを対象に一昨年に実施されたネットアンケート(ねとらぼ)によると、「一番好きな織田信長役」のベスト10は(1)反町隆史(2)染谷将太(3)渡哲也(4)高橋幸治(5)役所広司(6)豊川悦司(7)吉川晃司(8)緒形直人(9)高橋英樹(10)市川海老蔵です。

総じて、いるだけで絵になる人。存在感のあるメンバーです。

「利家とまつ」(02年)の反町はホームドラマ的な雰囲気の作品の中で、きりっとスタイリッシュな信長像を作り上げました。口癖の「で、あるか」が耳に残っています。

「秀吉」(96年)の渡は、竹中直人演じる型破りな豊臣秀吉とは対照的にこれぞ信長という重厚な存在感を示しました。

年配の人にとって信長役としてもっともしっくりくるのは高橋幸治かもしれません。「太閤記」(65年)「黄金の日日」(78年)で2度の信長役。現代劇の洗練された都会人の役が多かったことから、当初は荒々しい信長のイメージにはそぐわないとの声もありました。が、回を追うごとに人気が高まり、終盤には視聴者から「信長を殺さないで」と史実を変えてくれといわんばかりの嘆願が数多く寄せられた逸話があります。

そして、ロック歌手の吉川と歌舞伎の海老蔵(團十郎)はそれぞれのホームグラウンドでの「華」を役に生かしたと思います。

例外は「麒麟がくる」(20年)の染谷だと思いますが、制作サイドが「これまでにない革新的な人物像」を目指した結果で、演技巧者らしい人間くささが記憶に残りました。

大河以外でも「信長協奏曲」(14年フジテレビ系)の小栗旬、異色作「女信長」(13年同)の天海祐希など、きりりとした存在感と「華」が共通項になっているのは間違いありません。

対して「一番好きな徳川家康役」は(1)津川雅彦(2)内野聖陽(3)滝田栄(4)郷ひろみ(5)西田敏行(6)北大路欣也(7)阿部サダヲ(8)風間俊介(9)寺尾聰(10)松方弘樹です。

クセの強い技巧派が目立ちます。

津川は「独眼竜政宗」(87年)と「葵 徳川三代」(00年)の2作品で家康を演じました。我慢強い家康は爪をかむクセがあったと伝えられ、津川はこれを印象的に使ってリアルな家康像をつくり上げました。「真田丸」(16年)の内野もこのクセをひんぱんに盛り込み、これが「忍耐」を象徴する動作になりました。

忍耐という意味では「功名が辻」(06年)の西田の我慢の表情が忘れられません。秀吉の死を知った時の「長かった…」のセリフに実感がありました。安定感抜群のこの人らしく、主演の「八代将軍吉宗」(95年)に「葵-」の秀忠役を加えて、大河で3人の徳川将軍を演じ分けています。

ユニークな視点で描かれた「おんな城主 直虎」(17年)の阿部は他とは違ってフレンドリーで、弱気な性格に意外性がありました。染谷信長同様に異色の家康といえるでしょう。阿部のコミカルな雰囲気が生かされ、チョビひげも記憶に残りました。

「信長 KING OF ZIPANG」(92年)の郷は当時36歳。年齢が現在の松本に近いこともあり、同様に若き日の家康のナイーブさを感じさせました。「華」が先に立つタイプだとは思いますが、豪胆というよりはソフトなイメージの郷はやはり信長より家康なのでしょう。信長役の緒形直人は12歳下でしたが、郷の若々しさが生かされて、その上下関係が当たり前のように見えたのを覚えています。

俳優なのだから、どんな役でも演じるのが当たり前と思う人もいるでしょうが、イメージが大切な職業ですから、キャスティングする側もされる側も、適役かそうでないかの判断は、とてもデリケートです。

敏腕といわれたあるマネジャーから「『水戸黄門』の格さん役が来たんですけど、断りました」と打ち明けられたことがあります。彼が担当していたのは、これからという若手で、当時TBSの看板番組だった「水戸黄門」からのオファーは願ってもない話に思えました。が、そのマネジャーは「彼(その俳優)のイメージと将来を考えると、格さんでなく助さんじゃなきゃダメなんですよ」と言い切りました。

助さんは明るくナンパ、格さんは真面目で実直な性格です。助さん俳優は杉良太郎、里見浩太朗、あおい輝彦…。格さん俳優は横内正、大和田伸也、伊吹吾郎…。里見は映画で格さんを演じたこともありますから、その差は微妙ですが、その顔ぶれを眺めれば、「色」の違いが分かるはずです。助さん俳優は「やさ男」、格さん俳優は「骨太」と明確な違いが見られます。

今回の木村と松本を入れ替えてイメージしてもらえば「ちょっと違うな」と思えてくるはずです。よく知られた歴史上の人物の配役には、やはりその俳優のイメージが大きく関わっているのです。

■秀吉役に求められるコミカルなイメージ

「レジェンド-」の秀吉役は演劇ユニットTEAM NACSの音尾琢真(46)。「どうする家康」ではムロツヨシ(46)です。

信長や家康とは一線を画し、「サル」と呼ばれた秀吉役には三枚目的要素が求められているようです。

大河ドラマ出演者を対象にしたネット投票(ねとらぼ)では(1)竹中直人(2)緒形拳(3)西田敏行(4)香川照之(5)小日向文世(6)勝新太郎(7)火野正平(8)笹野高史(9)佐々木蔵之介(10)岸谷五朗となっています。

コミカルなイメージの強い人や、その域までカバーできる実力者ぞろいです。徳川3将軍に続き、ここにも3位の高順位で顔を出している西田は、信長役をのぞけば、貴重なオールラウンダーと言えるでしょう。

大河以外では「信長協奏曲」の山田孝之、ドラマ「太閤記 サルと呼ばれた男」(03年フジテレビ系)の草なぎ剛。そして映画「清洲会議」(13年)では、音尾と同じNACSの大泉洋の演技が印象的でした。

※「草なぎ」の「なぎ」は弓ヘンに前の旧字体その下に刀

◆相原斎(あいはら・ひとし) 1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒沢明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。マイベスト信長は大河ドラマ「秀吉」の渡哲也。家康役では映画「関ケ原」(17年)で役所広司の漫画的とも言える演技が記憶に残った。大河ドラマのきりっとした信長役から34年。本人の言う「役者は年齢を味方に」を実感。